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help RSS 恵比寿ガーデンシネマ 〜町に映画館があったころ〜

<<   作成日時 : 2011/01/28 01:58   >>

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画像 東京を代表するミニシアターの一つであり、渋谷区恵比寿にある唯一の映画館、恵比寿ガーデンシネマが、今年の1月いっぱいで17年の歴史に幕を閉じます。

 今月の15日から、過去にこの映画館で上映されていた名作が期間限定で復刻上映されていることもあり、久しぶりに足を運びました。勤めている国語教室が恵比寿にあることもあり、僕も空いている時間を使ってこの映画館に行くことが幾度となくありましたが、今回も時間を調整し、日を分けていくつかの映画を観ることができました。まず、キューバ革命の指導者であるチェ・ゲバラの青年期の南米旅行を描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2003年/ロバート・レッドフォード監督)。近未来の月面を舞台に、科学技術の発達による生命倫理問題をテーマとした『月に囚われた男』(2009年/ダンカン・ジョーンズ監督)。そして、明日はいよいよ閉館という1月27日(木)に観に行ったのは、この映画館がかつてから多く上映してきたウディ・アレン監督の最新作『人生万歳!』(2009年)。閉館間近ということもあり、映画館にはいつもに比べてたくさんの人が来ているように感じられました。映画が終わったあとも、心なしかどの人も名残惜しそうに館内に留まり、壁一面に貼られてある往年の映画ポスターやパンフレットに見入ったり、携帯電話のカメラで撮影したりしていました。館内には館長さんらしき方もいて、ロビーの人たちの様子を感慨深げにじっと見つめていました。決して短くはない歴史を刻んできたものや場所が姿を消すというのは、やはり寂しさを感じさせます。
 
画像 僕は映画を観るのが昔から大好きでした。父親に連れられて初めて映画館に行ったのは幼稚園生のときでしたが、その後も勉強やサークル活動、仕事などで忙しいときでも、時間が許すときには映画館に足を運んできました。休みの日には映画館をはしごして一日に何本も観ることもあり、一年間で合計200本近くの映画を観た年もあったくらいです。
 とはいえ、日本の他の地域と同じく、僕が今住んでいる埼玉の旧大宮や隣の浦和でも、昔ながらの映画館は姿を消してしまいました。大宮で最後の映画館が閉館したのは、僕が大学生のときでした。今やさいたま市には、MOVIXやワーナー・マイカルなどに代表されるような、他の商業施設に併設されている最新式のシネマコンプレックスしかありません。
 
 「日本は欧米と異なり、ここ何十年かの間に社会の重心をずっと若い層にシフトしてきた。その結果、社会全体がどこか遊び半分で、軽くて、頼りない印象になってしまった」と語っていたのは、作家の池澤夏樹氏です(『明るい旅情』新潮社より)。画像僕がこれまで生きてきた人生の長さなど決して長くはありませんが、そんな僕でも、時代を問わずたくさんの映画を人並み以上には観てきてはっきりと感じることがあります。それは、決してメジャーな作品とは言わなくとも、人間が生きていくに当たっての喜びや悲しみを、こだわりを持って鋭く描いた映画が、近頃は本当に少なくなってきて、またそれらを上映する映画館も、同様に少なくなってきたということです。もちろん最新式のシネマコンプレックスであっても、そのような良質の映画は今でも上映しています。僕自身シネマコンプレックスで良い映画に出会って感動を味わった経験も多いので、それは否定しません。けれども、旬の俳優やタレントを多く起用したり、特殊技術で映像の派手さを追及したり、テレビで放送されているドラマやアニメを多く映画化することで、どこか若い世代のみに迎合している映画が量産され過ぎていて、さらにそのような映画に頼りすぎているのではないか、と感じてしまうのもまた事実です。

画像 良質な映画とは、見るたびに新たな発見ができる幅の広さを持ち、観るものが現実を生きていくにあたってのヒントや新たな視点を提供してくれる映画であると思います。映画を観て心が打ち震えるほどの体験をしたあと、帰り道に見る街の風景がいつもより輝いて見えるということは多くの人が体験しているのではないかと思います。反対に、映画がきっかけで人生の厳しい現実を知り、自己の肯定レベルがぐっと下がるという体験も、多くの人がしているのではないでしょうか。そのどちらも、本物の映画体験です。僕たちは束の間映画という想像上の世界を生きた後、やがては再び現実を生きていかなければなりません。その現実を生きていくためのエネルギーをさまざまな形で与えてくれるのが、良い映画であるといえます。

 僕たちは映画を観るとき、銀幕の中で繰り広げられるさまざまなドラマと自分の人生を重ね合わせます。そして、映画の登場人物のような人生を生きてみたいという一種の憧れの気持ちを感じ、想像を広げていきます。画像言い換えれば、映画とは僕たちにとって「あり得たかもしれない人生」を束の間見せてくれる時間芸術であるといえます。そして、登場人物になりきって泣き、笑い、苦悩し、そうした感情を周りの見知らぬ人たちと共有できるのが、映画館で映画を観ることの醍醐味であるといえます。『モーターサイクル・ダイアリーズ』を観ているとき、僕はたしかに若き日のチェ・ゲバラとともに旅をしていました。また、『月に囚われた男』を観ているときは宇宙に取り残される孤独を感じ、『人生万歳!』では他の観客とともに、人生の苦難をも包み込むユーモアに笑いました。

 「映画は皆のもの。映画館の中で、こっちに学校の先生、あっちにソバ屋のおかみさんがいる。お爺ちゃんも、子どももいる。皆が学問や教養に関係なく、一緒になって1つの映画を観ている。僕はそういうのが好きなの。映画は人の垣根も国の垣根も取り払ってくれる。それが映画なの。」と語っていたのは、「さよならおじさん」としても知られた映画評論家の淀川長治氏です。
 たとえ形が変わっていくとしても、僕たちに良質な出会いの時間を提供してくれる場所は、なくなってほしくないものです。
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