『マーチ・カタロニアの栄光』 間宮芳生

 現代は人と人同士の関係のみならず、人とモノとの関係も重要な意味を持つような《関係の時代》であると述べたのは、日本文化研究の第一人者であり、編集工学研究所所長の松岡正剛氏である。少ない関係の中に確固とした意味を発見し、一つの関係が生まれたらその意味がどのようなものかを味わうことの重要性を氏は訴え続ける。
 氏のそうした姿勢に強く影響を与えたのは、日系アメリカ人の彫刻家であり、画像インテリアデザイナー、建築家でもあるイサム・ノグチ氏(1904-1988)であったという。詩人の野口米次郎、作家のレオニー・ギルマーの間に生まれたイサムは、日系人ということもあり幼少のときからいじめを受けていた。また第二次世界大戦勃発に伴い、日系人の強制収容が行われた際に自ら志願して強制収容所に拘留されたが、「アメリカ人のハーフ」であるという理由でスパイであるという噂がたち、日本人から冷遇された。そこで自ら出所を希望するが、今度は「日本人のハーフである」との理由で出所できなかった。
 そうした経験を通して、自らのアイデンティティーを深く考えざるを得なかったイサムが最初に気づいた創造の哲学が、《関係の発見》だった。
 当時、ロダンやセザンヌ、ピカソなどに代表される世界の芸術家たちは、「人」や「もの」そのものを表現していた。しかし、イサムは「人」や「もの」の《あいだ》、すなわち関係性に注目した。東洋と西洋の《あいだ》、天と地の《あいだ》、精神と物質の《あいだ》…。そういった抽象的な関係性に着目し、作品で表現しようとしたイサム・ノグチはまさしく、《芸術家》、《建築家》などという言葉が陳腐に聞こえてしまうほどオリジナリティー溢れる視点と、稀有なる創造性を持った人物であったと言うことができる。

※写真はイサムノグチ氏の最大の作品、札幌市東区のモエレ沼公園。1988年に構想が開始され、完成は2005年。公園全体を1つの彫刻に見立てている。

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 さて、《建築家》でもあり《芸術家》でもある、底知れぬ創造性と独創性を秘めた人物画像としては、スペインの鬼才、アントニオ・ガウディ(1852-1926)も外すことはできない。
 ガウディはスペインのカタロニア(カタルーニャ、スペイン北東部)生まれ。1883年に着工し、現在でもまだ未完成のバルセロナサグラダ・ファミリア聖堂はあまりにも有名である。サグラダ・ファミリアの設計を目の当たりにした評論家たちは、ガウディに対して「悪魔なのか、天才なのか・・・」と呟いたという。

 間宮芳生による吹奏楽の傑作『マーチ・カタロニアの栄光』は、そんなガウディと彼の残した作品群をテーマにした異色のコンサート・マーチである。1990年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲として作曲されが、課題曲という範疇には収まらない高い音楽性により、今でも根強い人気を誇る。今年の3/24にサントリーホールで行われた現代の音楽祭『吹楽Ⅳ』でも、この曲が中学生バンドを代表する実力校、東京小平第三中学校(指揮/中村睦郎)により演奏された。

画像 作曲の経緯と背景について、作曲者の間宮氏自身はこう語っている。
 「生涯を地上に人間の夢の国を作ることに捧げたスペイン、カタロニア生まれの建築の鬼才・ガウディに捧げられたマーチ。と言うより、ガウディが作った建物、庭園、教会などを写した映画につけた私の音楽のある主題断片がもとになって、このマーチができた。」
 普通の長調、短調などとは違う、リディア旋法ミクソリディア旋法などが使われることで、中世と現代、あるいは異国的なものとヨーロッパが直結してしまったような不思議な感覚のマーチが生まれた。間宮氏が「マーチとしてはテンポを遅めに設定してある」と述べるのも、モチーフの重なりや変拍子に聞こえる不規則リズムの面白さ、中間部の装飾音を鮮やかに浮かび上がらせるためである。

 曲は上行形の張り詰めた旋律が木管楽器で奏される短い序奏で始まる。画像
 第1主題は木管とトランペットで奏される複雑なメロディーライン。「スペインの家々の屋上にある煙突の飾りとして彫刻されている兵士の姿から受けたイメージ」というノートにあるように、重い甲冑を着た中世の兵士が行進している様子が目に浮かぶようである。しかしそこには血なまぐさい殺戮のイメージはなく、あくまで気品溢れる中世のヨーロッパ騎士の行進である。
 中間部は雰囲気が一転、低音の長い保続音の上に朗々と流れる、装飾音が印象的な高音ユニゾンのメロディーである。それはあたかもサグラダ・ファミリアが地上から天空へと高くそびえ立っているかのよう。途中から、オクターブとさらに五度離れた平行が重なり、民族的なダンスを伴奏するバグパイプを思わせる。
 ダルセーニョにより曲は再び第1主題に戻り、その後活気あるコーダに入って力強く全曲を締めくくる。

※下は小平第三中学校による『カタロニアの栄光』が収められた吹楽ⅣのCD
画像

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